炭素鋼はJISにてS10C~S75Cまでの規格があり、一般的に高周波焼入れではS25C~S55Cの炭素鋼が使われます。硬度は炭素量に応じた指標があり、例えばS45Cの場合はHRC54~60です。炭素量0.6%以上は硬さが頭打ちとなります。焼入性をよくする合金元素が入っていないため、深く焼入することが困難であり、一般的には焼入深さは2mmほどです。
また、硬度を入れるためには加熱後にすぐに冷却する必要があります。
用途や目的に合わせた材料選びが生産性の向上やコスト削減、品質の向上につながります。
詳細1はこちら
詳細2はこちら
合金鋼は、炭素鋼にC以外のCr、Mn、Ni、Mo、Bなどの合金元素を加えて、機械強度や耐摩耗性を増した鋼です。熱処理面では、炭素鋼と比べて焼入れ深さが大きく(焼入れ性がよい)、さらに焼戻しをした場合の焼戻軟化抵抗が大きいため靭性をもった鋼になるという特徴があります。
合金鋼(SCM435、SCR435など)の高周波焼入では、一般的には炭素鋼よりもゆっくり冷やします。その理由は、合金鋼は過冷却で割れる危険性が比較的高いからです。とくに凹凸のある深焼き品では注意が必要です。合金鋼の過冷却割れは、表面が硬化した後に遅れて内部が硬化するために起こります。
具体的な対策方法は詳細記事をご覧ください。
詳細はこちら
ステンレス鋼には、大きく分けてフェライト系、オーステナイト系、マルテンサイト系があります。高周波焼入れを施せるのはマルテンサイト系です。そのほかにも、オーステナイト系には、後工程のために硬度を落としたり組織改善をしておく必要性から、部分的に高周波焼鈍しを施されたりします。
ステンレス鋼は、Crが多く含まれる為、オーステナイトの拡散がしづらく、炭素鋼や合金鋼にくらべ、1000℃近くまで温度を上げ、オーステナイトを拡散する必要があります。
しかし、オーステナイトを拡散しすぎると、逆に急冷時にマルテンサイトになりきれなかったオーステナイトは残留オーステナイトとして残ってしまうため、高周波焼入れでは高いコントロール技術が求められる鋼種の一つです。
詳細1はこちら
詳細2はこちら
鋳物は、高周波焼入れにおいては硬度のバラつき、焼割れなどの問題が発生しやすい材料です。変態点まで急速に加熱する高周波焼入れは、素材硬度、素材組織分布が焼入品質に大きく影響を及ぼします。特に、シビアに硬度を要求されるダクタイル鋳鉄(FCD)の場合、母材のパーライト率は80%以上必要です。
詳細はこちら
硬さを出すためには、ワーク母材に炭素がバランス良く分布されている必要があります。
しかし、鋳造工程で生じた成分偏析のある材料が高周波焼入工程までもちこまれると、硬度ムラはもちろん、偏析を起点として焼割れが起こる可能性があります。
また、金属材料を鍛造した際に形成される鍛流線(ファイバーフロー)は、オール切削品に比べ鍛造品に強度をもたせる効果がある一方で、高周波焼入工程にて硬さのバラつきや硬度不足の要因となることがあります。
このように、目に見えなくても材料欠陥や機械加工によって発生した残留応力・金属組織の状態が、最終工程に近い高周波焼入れの品質に影響を及ぼすため、トータルで工程を考慮していくことが大切です。
焼入れによりマルテンサイト組織にし、つづいて焼戻しをおこなうことで機械的性質を調整する鋼を調質鋼といいます。鋼材の圧延・鍛造時に発生した残留応力や結晶粒のバラツキを整えることができます。調質処理では炉による焼入れ後、550℃以上の高温焼戻しをおこない「ソルバイト組織」にします。調質は炭素鋼よりも硬さ(強度)が必要な合金鋼(クロムモリブデン鋼・クロム鋼・マンガン鋼)部品に施されます。調質処理をすることで高周波焼入れの品質もより一層安定します。
一方、高周波焼入れに多用されるS45C等の炭素鋼の前熱処理の多くは「焼きならし」と呼ばれ、オーステナイト領域に加熱・保持した部品を炉外で空冷します。
詳細はこちら
球状化熱処理は、鋼中の炭化物を球状化させるために、炉に入れて行う焼なましのことです。
合金鋼や高炭素鋼のような材質は、切削などの機械加工を容易にするため球状化熱処理が施されていることがあります。
しかし、球状化された組織は、逆に高周波焼入れにとって不利な状態となります。その理由は、数秒から数十秒という短時間加熱で処理していく高周波焼入れにおいて、球状化された組織はオーステナイトの拡散をしにくくするためです。
詳細はこちら